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代表 小林幸恵が毎日更新!
表参道シナリオ日記

シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。

終わった人

シナリオ・センター代表の小林です。金土曜日と大阪校の入学式に行ってきました。
前の日まで大荒れで、明け方に雷がひどく、我が家の怖がりはるは守ってくれるべきパパを起したい。最初は遠慮して、腕とか足に、前足でカリカリして「ねえねえ、パパおきてよ」とうながすのですが、なかなか起きてくれない。
最後の手段とばかり頭をカリカリ・・・頭は、もろ(間を切って読んでください)肌(笑)のパパは、悲鳴を上げて飛び起きます。
頭の良いわが愛犬、何より私の喜びです。

  終わった人

内館牧子さんの「終わった人」(講談社刊)を読ませていただきました。
新聞小説として釧路新聞はじめ8社の新聞に掲載されたものに加筆されたものです。
さすが内館さん、定年の男どもの気持ちをよく理解されていて、我が家の主人公も同様なので、読んでいて小気味よい本でした。

ご自分も還暦を迎え、友人知人は次々と定年を迎え、クラス会や数々のサークルの会合が頻繁に開かれるようになったそうです。
そのときに気がつかれたのが、本書のテーマ、「若い頃に秀才であろうとなかろうと、美人であろうとなかろうと、一流企業に勤務しようとしまいと、人間の直地点って大差ないのね」ということ。
「着地点に至るまでの人生は、学歴や資質や数々の運などにも影響され、格差や損得があるだろう。社会的に『終わった人』になると、同じである。横一列だ。」
主人公の田代壮介は、東大法学部執心で超一流銀行のエリートだったが、役員になるはずが子会社へいかされ、子会社の専務で失意のもとに定年を迎えます。その後の心の変化を描いています。 

内館さんの創られるキャラクターはさすがです。
岩手出身のエリートになるために頑張ってきた主人公。その妻は、東京生まれのお嬢様だったのだが、40後半から美容師をめざし、美容師として着々と力を発揮し、独立する。そのいとこのトシは、飄飄と生き遊び人に見えるイラストレーター。主人公を自分の会社の誘うIT会社の若き社長鈴木。主人公の高校時代の友人でボクシングのレフェリーで世界戦のレフェリーをめざす二宮、岩手でひとり暮らしの人生の達人のお母さん、岩手の高校の友人たち、絵本作家を夢見るカルチャーセンターの女の子、主人公を客観的に見ている娘。それぞれのキャラが見事に立っていて、主人公の田代を彩ります。 

「スーツが息していなかったから」
「冗談じゃないわ。他人に自分の人生を左右されるなんて」
「百年付き合ってもあの女はパパとどうにかなる気なんかないよ」
「かけがえのない人っていうのは友達としてみている人のこと」
「恋?お前も情けないものと比べるね。あんなものは十代でも二十代でも生きているついでにするものだよ」
「ソフトランディングができなかったんだよね」
「思い出と戦うほど馬鹿じゃない」
「結婚はギブアンドテイク。その根性がなければ別れる。二つに一つだよ」
まあ、きりがないのですが、セリフは内館語録のようにすばらしい。 

男性にとっては「あるある」だらけ、女性にとっては男の性(さが)を知る内容でもあるのですが、主人公の葛藤も、夫婦の対立もどちらがいいとか悪いとかではなく、葛藤も対立も強いのはどちらの重さを同等だからこそ・・・うまい。

いまいち、葛藤が弱いとか、登場人物に血が通っていないとか言われる方は、ゼッタイ読んでみるべし。

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