半世紀の時間
シナリオ・センター代表の小林です。明日は大阪校です。
 1月にいったきりで、久々の初夏の大阪を、大阪に戻った大塚さんと一緒に楽しんで来ようと思います。とはいえ、ホテルと大阪校の往復だけなので、せめてランチで大阪の初夏を満喫できたら・・・「けつねうどん」ではなく。(笑) 
 大阪シナリオ作家養成講座は、最初は新井が1人で、新井が心筋梗塞で倒れてからは後藤と3人で。新井が亡くなってからは所長の後藤と2人でやってきました。
 今は柏田と2人でやっています。
 50年も経つと様々なことが変わります。失うもの得るものたくさんありました。半世紀ですものね。
 それでも、新井を失った今も、コツコツと積み上げてきたものが、それなりのカタチになっていくのだということを実感しています。
 ありがたいことに、テレビドラマ、アニメ、映画、ラジオドラマ、ゲームシナリオ、漫画原作、小説などあらゆるジャンルで出身ライターの方々が活躍されています。 
 この50年近く受講生の皆さんを見続けてきて、ひたすら映像表現の技術のみをお伝えし続けて、本当に基本の力こそが大事なのだということを実感しています。
 感性は人それぞれだからこそ、創作は面白いわけですが、感性だけでは他人に伝えることができません。
 基本の技術は作者の素晴らしい感性を伝える手段ですから。
 明日は、新井とのやりとりを思い出しつつ、新幹線に揺られることにしましょう。 
奥様はクレイジーフルーツ
柚木麻子さんの「奥様はクレイジーフルーツ」(文春文庫刊)が文庫化になりました。
 2016年に単行本となった「奥様はクレイジーフルーツ」ですが、改めて文庫を読んでみるといつの時代でもセックスは大きな問題ではないかとも思います。
 セックスレスの夫婦のお話です。
 結婚3年、30歳の初美は、編集者の夫と仲が良く、優しい夫とキスもするし、一緒にお風呂も入るのですが夜の営みが間遠くなっています。
 欲求不満がたまっている初美は、夫に迫りまくるのですが、女性誌の編集長の夫は、仕事が忙しくなかなか応じてくれません。 義母に相談すると、夫の父親も淡白でそれで離婚したので、DNA的に息子も淡白なのかもしれないから、だめなら別れなさいとまで。
 アクセサリーデザイナーとして仕事も忙しく充実している、セックスレス以外はなんの問題もない初美なのですが、セックスレスの大学の友人、義弟、学生時代の憧れの人、近所の仲良しおばあさんの孫、果ては乳房検診する女医さんにまであらぬ妄想をして迫っていきたくなるほど切羽詰まっています。
 では、浮気をしてやろうと思ってもやっぱり夫以外とは・・・。幸せとセックスレスはどんな関係なのでしょうか。 
 「禁断の果実」をもじっての、各章のタイトル「西瓜のわれめ」「苺につめあと」「柚の火遊び」「ピオーネで眠れない」「メロンで湯たり」などなど、小粋なタイトルに初美の気持ちがよく表れています。 
 フランス文学専攻の柚木さんは、あちらの不倫小説を読むと、主人公の女性たちは精神的レベルも知的レベルも高いことに気づかれて、不倫は子供には務まらないのだと思われ(笑)、だからこそ子供のまま結婚した人がどのように性欲や夫婦と向き合っていくのかということを描いてみたかったそうです。
 実に初美の葛藤が面白く、気持ちと身体とのねじれ現象は本当に誰にでもある「あるある」だと思うので、どなたが読まれてもうなずかれることでしょう。
 日本はセックスについては他の国と比べると成熟していないようなので、多様な人間関係が問われる昨今、大人のセックス倫理とはどういうものか、セックスレスと幸せは両立できないのか、生産性が必要なのか(笑)、もっとちゃんと向き合って、多様な生き方を模索すべきではないかと思います。・・・なんていう堅苦しいお話は別として、まずは初美のかわいいまでの葛藤を楽しんでください。


			










