しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。
ダメダメな生徒の典型だった、新田さんがどうしてシナリオ・センターの講師に…?
しかも、新設された作家集団を担当していますが、最初は「作家集団、やりたいない」って言ってましたから。でも、実はちゃんとゼミのことを考えているおちゃめな新田講師の迫ります。新田講師インタビュー後編です。前篇はこちらから。
新井(以下、A) 一旦は、「シナリオはいいや」って、シナリオ・センターから離れたわけですけど、
研修科の講師として戻ってらしたじゃないですか。そのキッカケってなんですか?
新田(以下、N) 辞めてずいぶん経った頃、柏田先生から「教えてみない?」
と連絡があったんです。お断りしていましたけど、単発的に2年間ぐらいお誘いを受けて。
引退してからでいいやと思っていたけど、創作の現場に近いところ、
物語が生み出されていく場所にいるのもいいかな思って引き受けることにしました。
自分の仕事に専念してはいたけど、シナリオ自体には興味ありましたから。
A 講師をやってみてどうでした?
N シナリオの知識も中途半端なのでもういっぱいいっぱい。
わからないことだって多いわけだし。
それでも「嘘を教えてはいけない」ってことだけは気を付けました。
分からないところは正直に分からないと白状してましたけど、でも分からないって、
できるだけ言いたくないじゃないですか。
A そうですね(笑)。
N だから、生徒さんの課題を真剣にみるわけです。どこが良くてどこがいけないのか。
そうやって、何十、何百本と読んでいると問題点とかが見え始めてきて、
そこで初めて新井先生が言っていることの意味が分かってきましたね。
「物語は感情で転がせ」とか。ビシッとね。
A 講師という視点から見ると「シナリオの基礎技術」のすごさって、改めてわかりますよね。
新井一だって、いろんな人のシナリオを読んで、
「より面白くするには」って確立していったものですもんね。
N 自分も、生徒さんの作品を読めば読むほど分かってきましたから。
だから、研修科を受け持った最初と最後の方で自分自身が全然違います。
もっと言えば、長編講座を経て作家集団を受け持っている今の方が
的確に作品について言えますね。
A 確かに講師も成長する部分ってありますよね。
伝えることは同じなんでしょうけど。ずっとやっていると、その精度が増すのかなぁ。
N そうですね。
例えば長編講座でも、回を重ねるごとに生徒さんの問題が
より具体的な形で見えてきます。
最初は20枚は書けても長いものは書けない人のための講座でしたけど・・・
A 変わってきましたか?
N 講座をやっているうちに生徒さんは長いものが書けないのではなく、
面白いものが書けないから受講していることが分かってきて、
講座の在り方を変えました。
実感したのは、結局多くの人が長編を書けないのは、
「面白いって何か?」がつかめてないってこと。
「葛藤」、「障害」を入れるとよい、そういうことは頭では分かってるんです。
A 分かっていても・・・
N 長いものを書くのではなく、面白くて長いものを書く。言うは易し。
そういう意味では、長編講座にかかる労力ってスゴいよ。
A そっかぁ…。ひょっとしてもう長編講座はやりたくない?(笑)。
N 出来れば(笑)。
講座形式だと限界がありますね。最終的には、受講した人たちみんなの長編を全部読んで、
問題点を指摘したり改善の方向を示したいじゃない?
そうなると個人面談と同じですから。
A 講座でそれをやるのは体力的にキツいですもんね。なんせ、60名とかいましたもん。
そういう意味では、新設の作家集団クラスだと、そこを見ることができる、と。
N そう。作家集団は長編講座で出来なかったことを実践できる場だと思っています。
個人個人で問題点って違うじゃないですか。
例えば1本目で書けていた障害が、2本目では書けてないとしたら、
たまたま障害が入っていただけってことで。
何本書いても、面白いものが書けるようにするためには、
本当に理解してもらわないといけない。
A そういう意味では、ゼミだと、本当に分かってもらえているのか把握できますよね。
実際に書けるようにするために新設クラスで
取り組んでいることってどんなものなんでしょう?
N 思いつきをすぐに長編にするということはしません。
その思いつきが長編にするに相応しいのか、から始めます。
A そこから検討するんですね。
N そう。まずは3行ストーリーを書いてもらいネタ出しから始めます。
面白いネタが出るまで次の段階には進みません。
考えて考えて、その中で出たアイデアを膨らませるんです。
いろんなパターンを考えた上でシノプシスにする、それを何度もやり直して、
最終的にシナリオを書いてもらうって流れです。
A シナリオを書くまでに結構時間がかかりますね。
N そうですね。ぽんッと思いついたネタをすぐに長編にしないですから。
20枚くらいの分量はそれで書けるかもしれないけど、
長編だと面白くなりづらいんです。
A まず3行をやってみると…。
そもそも3行ストーリーが文章としてよく分からない、
ってこともあるんじゃないですか?
N まあ確かに文章力に個別の差はありますよ。
だけど、それは頭が悪いから書けないとかそんなわけじゃない。
誰が、どうなって、どうなる話、ってことを書いてもらうんだけど…。
A むしろ、それだけを書けるといいんですけどねぇ。
N でも、短い文章で「どんな話にしたいのか」なかなか伝わらないものなんですよ。
そのためにもネタの段階でたたいて、膨らませる段階でたたく、それをやるわけです。
すると書きたいことも明確になって短い文章でも伝わるようになります。
200枚書いた後に、似たようなものがあった、なんてことも避けられるしね。
A なるほど。準備万端で、シナリオを書くと。
一回それだけ準備をすると次はもっと、その次はさらにって。
どんどん早く書けそうですね。
N そうですね。ゼミの目的としては、コンクールとか関係なく、
面白いものを作るために、考え抜いた一作をつくること。
クラスの人たちから面白くないと言われた箇所をどうやれば面白く変えていけるのか。
それを繰り返していく過程で面白くするための要素が見えてくればいいなと思ってます。
自分が面白いと思っていても他の人が面白くないなら何とかしなくてはならない。
結構つらい作業になると思いますが、少なくとも独善は回避できますね。
面白くない独善的な作品って始末に悪いですからね。
A まさに新田さん自身の実体験ですね。
N そうですね(笑)。最初はとりあえず思いついたものを面白くしていこうっていう。
長編を書ききれる人って少ないですから。
A アイデアを検討して、練って、どんどん面白くしていく。
そのプロセスを体験してみるっていう場なんですね。
N それを踏まえた後は自分の書きたいものを書けば良いんですから。
ただ、クラス運営はまだまだ試行錯誤です。
ゼミの時間は限られているので、事前に読んでもらうなど工夫が必要ですね。
A そこは、作家集団ならではですね。
N なにより本気で考えてきた意見を交換できるじゃないですか。
その場でとりあえず言わなくちゃっていう意見じゃなくて。
そのためにじっくり読んでもらう時間が必要だしね。
A 本科、研修科でやる20枚シナリオって、ディティールの勉強じゃないですか。
20枚の次のステップとしてじっくり長編に挑戦したい人には
新田クラスおススメですね。
N さあ(笑)。あとはドラマで自分の思いを面白く伝えられるようになってもらいたいです。
A 「面白い」って単純に笑えるってことじゃないですもんね。
N 「弱者を虐めてはダメだよね」って言葉で伝えても、
心からそうは思ってもらえないのが人間ですから。
エンタメって軽く見られるけど、本当はスゴいことなんだって思います。
そういう発想が昔からあったら、今頃シナリオライターとして
活躍していたんでしょうけどね(笑)。
A (笑)。
去年、新井一賞授賞式に浅田次郎さんに来ていただいて、
その時にエンタメと純文学を分けることに意味はないと仰っていました。
「心からなるほどな」って感じてもらえれば、どちらであろうと関係ないんだと。
N 優劣があるものじゃないですから。純文学が上にあって、下にエンタメがあるような。
A 「作家集団やりたくない」って仰っていましたけど、
なんだかんだちゃんと考えているじゃないですか(笑)。
事務局スタッフは、「新田さん今日くるかな?」って心配していたりするからね。
なるほど、こんなクラスにするんだなって思いました。
N やることちゃんとやっているでしょう(笑)。
インタビュー構成 冨金原信志